概要
物心ともに豊かで安心できる生活を全人類が享受できる文明社会を築き上げるために必要な物質群には、有機物質、無機物質、生命物質等があります。物質科学国際研究センターは、特に分子性の物質に焦点をあててこれらの物質を創造し、さらに、新たな機能の発見とその機構解明に関する総合的基礎研究を行うことを目的として設立されました。
分子は限られた数と種類の原子から構成されていますが、その原子組成や配列および空間配置を精密に制御することによって、様々な機能が生み出されます。分子は現在、1千万種以上が知られており、その長さはナノメートルからミリメートル以上にも及びます。また、その存在量は脳内物質のようにピコグラム単位の超微量なものから、二酸化炭素のように年間60億トンも産出されるものまであります。このような多種多様な分子の性質を正確かつ精密に知り、新しい機能を持つ物質を設計し、思うがままに合成することが物質創造研究の根幹となります。そのためには、対象とする分子や分子の集合体の物理化学的性質を詳しく解析し、化学現象の機構を分子レベルで解明するとともに、地球環境やエネルギー問題の解決を視野に入れた効率的な物質変換方法を開拓することが重要です。一方、有用な天然生物活性物質の探索や、生命現象における化学反応の解析を通じて、自然に学び、自然と共生する化学を展開することも先端的物質科学研究には求められています。
物質創造研究は、あらゆる基礎学問の進展と新技術開発の基本となるものであり、また、環境・エネルギー・健康・食料・新素材開発などの緊急かつ重要な基本課題を解決して、わが国が科学技術立国として先導的立場で国際社会に貢献するための要となるものです。このような背景から、本センターでは、有機物質合成研究、無機物質合成研究、物質機能研究、生命物質研究、分子触媒研究を中心にそれぞれの卓越した第一線研究者が最先端の研究を推進します。さらに、得られた知識を集約し、より優れた機能を持つ物質の創製に向けて新しい基礎学問を構築するとともに、研究成果を社会に還元していきます。物質創造の基礎研究を国際的、総合的に推進する我が国最初の中核的研究拠点として、本センターは創造的研究活動に邁進します。
本センターは、物質創造に関する先導的基礎研究を推進する国際的中核研究拠点として機能すべく、有機化学者、無機化学者、物理化学者、生命化学者が弾力的に組織化された研究体制をとっています。有機物質合成研究、無機物質合成研究、物質機能研究、生命物質研究、分子触媒研究などの幅広い領域を包含する研究組織と、研究支援組織である化学測定機器室に、教授4名、准教授5名、助教6名の専任教員と特別教授を配置し、非常勤研究員、支援職員、協力教員が研究活動に参画します。この組織により、個々の研究分野の最先端研究を遂行すると同時に、お互いの連携を深め、海外との激しい研究開発競争に対応します。さらに、共同研究分野に国内および海外から著名な研究者を客員教授または客員准教授として迎え、国際的な研究交流によって活発な共同研究と情報発信を行います。
専任教官は名古屋大学大学院理学研究科物質理学専攻の協力講座を担当し、将来を担う大学院生や若手研究者の養成にも努めます。また、化学測定機器室は研究活動の一端を担うとともに、全学に対する測定支援と先端分析機器の啓蒙活動を行います。
センター長のもとには協議会と運営委員会を置いて重要事項の立案と決定を行い、センター事務室と協力して管理運営にあたります。特別顧問からは、センターの運営方針や研究活動に対する助言を継続的に受けます。また、ノーベル賞受賞者を含む国内外の指導的研究者や有識者からなる「インターナショナルアドバイザリーボード」を設け、国際的研究拠点としての活動計画の策定と実施に関する助言と評価を受けます。